さとやま学校だより06号「ステキな農の達人たち」

 檜原村では、急斜面で畑作業をしている年配の方を、あちこちでお見かけしますが、その方たちの身体の動きは、本当にしなやかで無駄がありません。そして、焦ることも急ぐこともなく淡々と作業をこなして行く姿は、まるで、子どものときから鍛錬を重ねて来たアスリートのような美しさがあります。
 腰を使う生活から遠ざかっている都会人は、畑仕事を始めても、どうも動きがぎくしゃくしてしまいます。がんばればがんばるほど腰痛になったりします。斜面畑農業を学ぶ基本は、まず無駄のない身体の動きを意識的に習得することかもしれません。
 檜原村の農の達人たちがさらにステキなことは、惜しみなく私達に農の極意を教えてくださることです。私達が畑仕事をしていると、通りがかりに、「今年の麦刈りは遅かったな」とか「もう土寄せの時期だよ」「もう収穫しなきゃな」とかさらりと言って去って行く方がいます。 又、初めて使う農機具の使い方がわからずおたおたしていると、遠くで見ていた人がやってきて懇切丁寧に教えてくださったりします。
 私たちの畑作業を見ると自分の娘時代のことを思い出すのか、昔のことを語ってくださる方もいます。80歳代以上の方の若い頃の話は、想像を絶するような別世界で、思わず聞き入ってしまいます。
 こんなふうにご近所の方とのコミュニケーションが自然に生まれる檜原村の畑仕事は、近所付き合いがほとんどない都会からやってきた人にとっては、なんともうれしいものです。そして、これこそが、都会が失ってしまったコミュニティーの温かさだと実感します。
 畑の達人と言えば、最近お亡くなりになった藤倉の振屋ハツさんのことが忘れられません。ハツさんが、この6月、道の草刈り中に倒れて帰らぬ人になったと聞いた時は、本当にショックでした。
 ハツさんとのつきあいは、昨年の5月に雑穀の蒔き方を教えて頂いてからで、短い期間でしたが、ご主人を亡くされてから長い間、山の中腹の一軒家に独居し、日々畑仕事にいそしみながら暮してきたという生き方に、大地と繋がって暮す方たちの底知れぬパワーのようなものを感じました。
 夜明けから日暮れまで、いつも畑作業に精を出していたというハツさんにとって、畑で作物を育てることは、仕事や趣味といったレベルではなく、生きることそのものだったのでしょう。畑や作物について語る時の表情は明るく充実感がにじみ出ていました。
 ハツさんから話を伺うことはもう叶いませんが、檜原村にはまだまだステキな農の達人がたくさんいらっしゃいます。そんな達人の技や知恵を継承するためにも、当NPOでは、達人のインタビュー取材などの計画を立てています。
 檜原村の達人のみなさん、ぜひ、ご協力いただけませんか。(あるいは、みなさんの回りの達人をご紹介ください。)よろしくお願いいたします。

さとやま学校だより06号「ステキな農の達人たち」