さとやま学校だより14号「大豆ストーリー」

 見慣れた豆を土に植え付けると、まるで魔法が解かれたように成長し始める大豆。そのドラマチックな成長ぶりには、いつも驚かされます。特に発芽の瞬間、肉厚で空豆色の双葉(子葉)が、土の中からぐいと首をもたげ、そして、その双葉がちょっと開くと、すぐに小さく畳まれた2枚の葉(初生葉)が現れます。
 初生葉は大きなハート型で、まるでソーラーパネルのように、太陽に向かって葉を広げます。太陽の力を得て光合成を行われると、成長の力はさらに強まり、3枚葉の本葉が交互に出て、どんどん育っていきます。
 この頃(7月初旬)、私たちは、苗を畑に植え付けています。ポットではしっかり育っているように見えても、畑に植え付けるとひょろひょろと頼りなげ。しかし数日のうちに大地に根を張り、茎もピンして、いよいよ畑の作物として再スタートを切ります。
 その後、夏の太陽の中で、大豆たちは大きく育ち、夏の終わりには、ピンク色の小さな花が咲きます。その根元の実が徐々に膨らみ始め、よく見ると枝豆の形に。枝豆として食べておいしいのは10月の初め。味噌豆として育てている私たちの収穫は11月の初旬です。
 農業がおもしろさの1つは、こんなふうに作物の見事な成長のしくみが間近で見られることでしょう。作物たちは、いつも自然界の不思議に対する好奇心をかき立ててくれます。
 ところで、どんな作物でも栽培していると、ハラハラする期間があります。大豆の場合は、それが結構多い。まず、発芽時期。この空豆みたいな双葉は見るからにおいしそうで、鳥たちの格好のエサになってしまいます。ポットで育てるのは、それを回避するため。ポットの上にネットや紐を張って鳥が近づけないようにしています。
 ポット苗を畑に植え替える時期も、ハラハラします。梅雨の晴れ間で地面が湿っていれば良いのですが、今年のように梅雨明けが早く、畑はからからに乾いていると、根付く前に枯れてしまいそう。今年は、それでも夕立が多かったせいか、苗はなんとか根付きました。
 そして、大豆栽培にとって最大の難関は、実が入っておいしそうになった頃にやってくる動物たち。大豆栽培8年目ですが、既に、ハクビシン、サル、イノシシによる食害を受けました。大切に育てた作物が最後の瞬間に失われてしまうショックは本当に大きく、しばらく立ち直れないくらいです。
 今年は畑周辺にサルが出没している情報があるので、周囲と上部をネットで覆うという対策を予定しています。イノシシの気配がしたら波板で囲う必要もあるでしょう。果たして、最後まで収穫できるかどうか、まだまだハラハラする日々が続きそうです。(川上玲子)